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*『力を持つ者、対峙する』の続きです。
大きな蒼い翼を背にしたロイドが、ゆっくりと目をあける。
が、いつもは明るい輝きを宿しているその瞳は、今ひどく虚ろだった。
「ロ、ロイド…?―――っ!?」
「「えっ!?」」
ロイドへと近付きながら、声をかけたルークが、突然頭を抱えてしゃがみ込む。
それを、ミトスとエステルは驚きの目で見つめる。
「ちっ!さっきの薬が効いていやがる!!おい、ルーク!そいつに同調するなっ!!!」
「ぐっ…ぁぁっ!!」
アッシュがルークに怒鳴りつけるが、ルークはしゃがみ込んだまま、苦しげに呻き続ける。
「そんなっ…。私の力では薬の効果を消せなかった……?」
「間に合わなかったのかもしれない…。」
エステルの戸惑いの言葉に、ミトスは眉をしかめながら呟く。
ロイドは、形ある闇に身体を囚われていた。
口を塞がれ、腕も足も動かせない。
頭も固定され、自由なものは呼吸と瞳くらいだった。
そしてロイドの目の前で始まる、悲劇……。
「ロ、イド…………。」
1mも離れていない距離に立つ女性は、涙を流しながら眉を寄せ、苦しげにロイドの名を呼び続ける。
答えたいのに、助けたいのに、闇に拘束されているロイドには、そのどちらも出来ない。
「あ…あぁっ!」
「っ!!!!」
女性の背後の闇から、長い刃物が現れ、女性の身体を貫く。
女性が地に倒れると同時に、ロイドの頭は、女性を見上げる角度に変えられ、再び固定される。
「た、すけ………てぇ…………………。」
「――――――――――っ。」
地は血の海となり、それはゆっくりと広がっていく。
ロイドの足も、すぐにその海につかった。
なおも聞こえてくる女性の苦しむ声に、ロイドの瞳から涙があふれ出した。
どれだけ、時間が過ぎただろう…。
気が付けば、女性の悲痛な声は聞こえなくなっていた。
ロイドは、未だ流れ続けている己の涙で、視界がぼやけていたが、それでも視線の先…地が赤一面なのは分かった。
「アンナ…、あぁ、アンナ、こんな所に居たのか。」
何処からともなく、静かな声が聞こえてきた。
血の海へと迷いなく進んできたのは、赤い髪の…何処かで見たような気がする男だった。
男はロイドの足もとに屈むと、動かなくなった女性を抱き起した。
「さぁアンナ、一緒にロイドを探しに行かねば。きっと今頃淋しい思いをしている…。」
男の声は、どこまでも穏やかで優しげに響くが、目の前の光景の全てがそれを裏切っている。
ロイドから見える赤は、はたして男の髪の色か女性の血の色か……。
依然、ロイドの涙は止まらなかった。
「ぐっ………………。」
「この馬鹿野郎がっ!同調の解き方もしらねぇのか!?」
両手で頭を抱えたまま呻き続けるルークの身体は少しずつ光を纏い始めていた。
ルークとロイドの同調が強まった事を感じ、アッシュは怒鳴り声をあげるが、ルークの耳には届かない。
ルークは、今ロイドが見させられているモノを、客観的な視線で見ていた。
けれど、ルークの存在は、その幻覚の中に入る事が許されなかった。
結果、ルークがいかにロイドを助けようともがいても、叫ぼうとも、ロイドには届かず、残酷な幻覚は続いていくばかりだった。
自力ではロイドが囚われている幻覚の中へ入れないと悟ったルークの意識は、ロイドから少し離れる。
激しい頭の痛みを感じながら、ルークは目を開いた。
「っ!----!!!!!」
アッシュが何かを喚き散らしているのが見えたが、はっきりと聞こえない。
ルークは、頭を抱えていた左手を離し、その人物へと伸ばした。
「っ!?」
「「「!?」」」
苦しげに顔を歪めたルークに突然腕を掴まれたクラトス同様、アッシュたちも驚きに目を見開く。
「ロイド、を……………っ!」
「っ!」
「クラトス!?」
「「ルーク!!」」
次の瞬間、ルークが纏っていた光がクラトスに移り、ルークは倒れた。
そして、クラトスも膝を折り、頭を片手で支えて苦しげに呼吸を繰り返す。
―――ロイドを………っ!―――
頭に響いてきた声を最後に、クラトスの視界は真っ黒に染まった……。
「ロイド…こんな所に居たのか。心配したぞ。なぁアンナ…。」
「っ………。」
止まらぬ涙で濡れ切っている頬に、男の手が触れる。
その大きな手は紅で染まっていて、ロイドの頬にその紅を塗りつける。
血のドロッとした感触が頬に伝わってくる。
もう片方の手に女性を抱え、男は依然穏やかな声でロイドと『アンナ』…妻の名を呼び続ける。
ロイドはもう気付いていた。
紅に染まって動かなくなっている女性は自分の母で、そして今目の前にいる男は………。
「さぁ、行くぞロイド。三人で共に過ごそう…。」
「――――っ。」
頭も口も動かせないロイドは、見つめる事しか出来ない。
ぼやけた視界に入ってくる男の口元は、笑みを象っているように見えるが、はっきりとはしない。
そんな時、男が顔をロイドに近付ける。
「っ!!!!」
「ロ、イド…。」
見開いたロイドの目に映った男の口元から、血が流れていた。
そして、ロイドの頭は再び角度を変えられ、男の腹が見える所で固定される。
長い剣が男の腹に貫通していた。
そして、後から後から、男の背後から鈍い音が聞こえ、その度に男の身体を貫く剣が増えていく。
倒れない男と、その男に片腕で支えられている女性…。
見開いている瞳ではっきりと見せられたロイドは、言葉では表せない程の激情に支配されていく。
バサッ!!!
「ふっ……ははははっ!!これが…これが、アーヴィングの力の源ですか!!!!素晴らしいっ!!!!」
幻覚を外側から観察していた男…クヴァルは、ロイドの背に蒼く輝く翼を観止め、声を上げた。
「この力を私の為に使えれば…………っ!?」
闇に捕えさせているロイドに手を伸ばそうとした時、クヴァルは後ろから打撃を受ける。
次の瞬間には、クヴァルの姿はその空間から消滅した。
同時に、ロイドを囲っていた幻覚も闇も消え去る。
残ったのは、翼を広げたロイドと…クヴァルからロイドを解放したクラトスだけだった。
「ロイド…。」
クラトスは、ゆっくりとロイドに歩み寄る。
そして、気付く。
…ロイドが固く瞳を閉じ、全てを拒絶するかのように身体を小さく丸めている様に…。
「ロイド………。」
ロイドに声をかけながら、手を触れようとすると、ロイドの口から小さな声が聞こえてくる。
「ぃやだ……かぁさん……とぉさん………。」
―――見たくない、聞きたくない………―――
幼子のように泣きじゃくっているというのに、顔を俯かせて独りで苦痛に耐え続けている姿に、クラトスはたまらなくなる。
クラトスはゆっくりと…逆立ったロイドの髪に触れ、優しく撫でた。
反応を返さないロイドに、撫でる手を休めることはしない。
小さいが、聞こえ続ける両親を求める声…。
クラトスは、躊躇った。
今更、自分がこの子に何をしてやれるというのかと…。
『こたえてやってくれよっ!このままじゃ、ロイドは戻れない!!!』
ロイドの意識の空間の中に、直接響いてくる声に、クラトスはハッとする。
この声は…この声の主は、自分をココへと連れて来てくれた少年だと気付く。
『ロイドは、あんたが苦しみ続けているのは自分のせいだって思ってるんだ!自分が悪いってっ………だからっ、だから父親って分かってからも会いに行こうとしなかったんだ!!』
「っ!?」
『自分が近付けば、あんたはずっと過去にとらわれ続けるから、だから会いにはいかないって………。頼むよっ!ロイドを―――――――』
そこで、少年の…ルークの声は途絶えた。
今のルークが、ロイドの意識の空間に干渉する限界が来たためだろう。
クラトスは一度目を閉じ、それからゆっくりと目を開く。
目の前の独りで泣き続ける我が子に顔を寄せ、静かな声で、けれどはっきりと告げる。
「ロイド、迎えにきた。私と一緒に、帰ろう?」
「っ…。」
クラトスの声に、今まで無反応だったロイドがピクリと肩を揺らした。
そして、首を横に振る。
「帰りたく…ないのか?」
訊ねるクラトスに、ロイドはまた首を振り、言う。
「かあさん、も…とおさんっも……真っ赤……。血、たく、さんっ……いなくなっちゃぅ!」
ロイドは幻覚の中で、ずっと見せられ続けていた光景に脅えていた。
どんなに穏やかな声でも、優しげな声でも、目を開いてしまえば、それらは全て温かなものではなくなってしまうから……。
「…目を開けなさい、ロイド。」
ロイドは、自分の目元に確かな温もりを感じた。
その温もりは、自分の涙で湿るだけで、先程の様な嫌な感触はない。
「大丈夫だ。私は生きてここに居る。」
その言葉と共に、大きな手がロイドの手を優しく握る。
「ロイド。」
優しい声と、消えぬ確かな温もりに…とうとうロイドは薄目を開く。
始めに紅が見えて、ビクリとしてしまうが、それでもゆっくりと目を開く。
そこには、紅い髪と紅い瞳を持つ男が居た。
何処か懐かしい感じのする、穏やかな表情に、込めていた身体の力が抜けていく。
「とぉ…さん?」
ロイドが小さな声で呟くと、男は嬉しそうに目を細め、優しげな笑みを浮かべた。
「共に帰ろう。お前が許してくれるのなら、話したい事が沢山あるのだ…。」
「う、ん………。」
ロイドは何とか返事をし、ゆっくりと目を閉じる。
ロイドの意識に作り出された空間が、光に包まれ、静かに消えて行った…。
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長いもの続きですね(汗)
詰め込み過ぎて、解説が追い付かないです(--;)
ロイドを幻覚+闇で拘束していたのは、クヴァルの意識ではなく彼がロイドに使った薬の作用です。
アッシュに倒されたクヴァルは、今も倒れているはず…。
このシリーズだと、クラトスが特別な力を持っている設定ではないので、ルークの力でロイドの中に入れたとしました。
バーサスをやっているのですが、クレスをロイドの親戚設定にしたくなりますね(笑)
二人のお母さんが姉妹とかで、従兄設定!
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