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*『解き放たれた力』の続きです。
その男は、突然現れた。
病的な白い肌、相手をくった笑み。
以前と、全く同じだった。
違った事と言えば、ロイドが怯える事無く、真っ直ぐにその男を睨めつけている事だろう。
以前の事が嘘のように、ロイドは、鋭い視線を男に向けている。
男は、そんなロイドを愉快そうに見つめている。
「ロイド・アーヴィング。アンナの姓を名乗っていてくれたので、探すのが簡単でしたよ。」
くくくっ…と笑いながら一歩一歩近づいてくる男。
「…俺に何の用だよ?」
「君はアンナ・アーヴィングの子供だ。あの女の血が流れているのなら、充分に実験材料になるんですよ。」
「実験、材料……?」
「アーヴィングの血をひく者は、面白い力を持っています。私はその力の研究を完成させたいのですよ。」
「何を………。」
「アーヴィングの血をひく者は、もう君しないない。…私の研究の完成には、君が必要なのですよ…。」
男の言葉で、ロイドは悟った。
母をつけ狙っていたのは、ただのストーカーではなかった事を。
人を使って実験だの研究だのと、笑みを浮かべながら語る男は異常者としか見えなかった。
「ふざけるなよ……お前が…お前が、母さんをっ!父さんをっ!!!!!!」
怒りをあらわに叫んだロイドに、男はフンっと鼻であしらう。
「私は君の両親を殺してなどいませんよ。アンナは力を使い過ぎて自ら死に、君の父親は自害したか…もしくはその辺で生きているでしょう。」
いずれにせよ、自分は直接手を下してなどいない、と男は笑う。
ロイドは、両の拳をギリギリと握りしめ、怒りに身体を震わせていた。
「あぁ、あの女のせいで未完成のままでしたが…。ようやく進められそうですねぇ。」
『あの女』が指し示すのが、自分の母親である事は明白で…ロイドはとうとう怒りを抑えられなくなり、右の拳を振り上げた。
が、その瞬間、ロイドの頭の中に、ある声が響いてきた。
――― だめだよ、ロイド。ソイツにそれ以上近付いちゃいけない! ―――
「っ!?」
ロイドは踏みとどまり、左手で頭を押さえる。
目を見開いているはずなのに、今ロイドの目の前に見えるのは、薄気味悪い男ではなく、見知った少年だった。
「ミ、トス………。」
ロイドは身体が重くなっていくのを感じる。
瞼が落ちて来る…。
ガクッと足から力が抜け、膝をつく。
そのまま地面に倒れ込みそうになった所を、誰かの逞しい腕が抱き止めてくれたのを感じながら、ロイドは瞳を完全に閉じた。
「貴様はっ!!」
目の前で倒れたロイドを支えている人物を見、男…クヴァルは、声を荒げた。
「もうお前の好きにはさせぬ。」
ロイドを支えながら、クラトスは鋭い目を更に細め、クヴァルを睨みつけた。
クラトスがロイドを抱き上げると、クラトスの背後に居たミトスが駆け寄ってこようとする。
「来るな。嫌な匂いが充満している。」
「っ……。ロイドはその匂いで…。」
クラトスは片手で口元を押さえつつ、小さく頷く事で答える。
そして、一歩一歩慎重にその場から離れていく。
クヴァルは不愉快さを隠しもせず、顔を歪めていたが、ふと嫌な笑みを再び浮かべた。
「よく生きていたものですねぇ。それ程、アンナを愛していなかったとみえる。」
「貴様っ!!」
クラトスが怒りをあらわにした瞬間、騒がしい足音が複数聞こえてきた。
「そこまでだっ!!!!」
「ロイドっ!!!」
同時に響いた二つの声は、良く似ていたが、似ているのは声だけではなかった。
髪型こそ違うが、そこに立っていた二人は、瓜二つだった。
前髪を立てている方の少年は、不機嫌な顔を隠そうともせず、ミトスの隣に立つ。
そしてもう一人…ルークは、ロイドへ駆け寄ろうとする。
「止まれ、馬鹿がっ!」
ルークと瓜二つの少年が怒鳴ると、ルークはビクッと足を止める。
「そいつが意識をなくしてるのが見えねぇのかっ!」
「えっ…。」
少年の言葉に、ルークは少しだけ冷静さを取り戻す。
「…アッシュ、見えてるよね?解る?」
「……あぁ、『俺たちの力』を抑え込んで操る薬だな。」
アッシュと呼ばれたルークと瓜二つの少年は、訊ねてきたミトスに答えながら、目の前の男を睨みつけていた。
アッシュの言葉に、少し考えて…ミトスは薄らと笑みを浮かべた。
「…じゃぁ、僕の出番だね。」
ミトスはそう呟くと、ゆっくりと両手を天へあげる。
瞬間、ミトスの足もとから空気が舞い上がり、ミトスの金の髪を揺らす。
「っ!…これは。」
クラトスは、先程まで辺りに感じた嫌な匂いが無くなった事に驚く。
それどころか、空気自体が澄み切ったようにも感じられた。
「アッシュ!」
ミトスは両手を下げ、アッシュの名を呼ぶ。
「ちっ、解ってる!」
舌打ちし、ミトスに返事をしてから、アッシュは目を閉じて右手を前に出す。
すると、アッシュの右手の中に光が集まり、それは剣のような形におさまる。
「このザコがぁーーー!!!!」
カッと、アッシュが目を見開いた瞬間、クヴァルの身体が地から拒絶されたかのように跳ね上がる。
アッシュの右手に集まっていた光は散り散りにクヴァルの身体を打ち抜く。
「ぐぁぁぁーーーー!こ、こんな…」
醜い呻き声を上げながら、クヴァルは地へと崩れ落ちた。
「ロイド!ロイドっ!!」
震える手をロイドの頬に添えながら、クラトスはロイドを呼び続けた。
が、ロイドはピクリとも反応を返さない。
「ロイドっ………。」
顔を伏せ、クラトスはロイドの細い身体を抱きしめた。
そんなクラトスを、ミトスは心配そうに見つめる。
ルークは、とにかくそんな親子を不安そうに見つめるしかない。
アッシュは、苛々と周囲を見渡す。
と、その時、騒がしい足音が響いてきた。
「遅くなりましたっ!」
荒い息を繰り返しながら駆けて来たのは、小柄な少女だった。
胸に手を当てながら、少女は呼吸を整えるように目を閉じ、またすぐに力強く瞳を開いた。
「この方なんです、アッシュ?」
「あぁ。…頼む。」
「はい!」
少し変わった、けれど丁寧な口調で喋る少女は、アッシュとの会話を終え、ロイドたちへと歩み寄る。
「お前…エステル?」
隣にしゃがみこんだ少女を見て、ルークは驚く。
幼い頃に、何度か会った事のある少女だったからだ。
そんなルークに少女は微笑み、目を閉じる。
少女…エステルが祈るように両手を胸の前で合わせると、彼女の周りに温かい光が現れ始める。
それらの光はまるで雪のように、ゆっくりと優しくロイドに降り注ぐ。
暫し降り続いていた光は止み、ロイドの身体から光が消えていく。
「これで、もう大丈…っ!?」
「「「「っ!?」」」」
エステルが目を開き、笑みを浮かべた瞬間。
ロイドの身体がクラトスの腕から浮かびあがる。
そして、空中に浮かんだロイドの背から、大きな光り輝く蒼い翼が広がるのを、クラトス達は見上げていた。
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これは果たして親子中心となるか、段々解らなくなってきましたが、出したいキャラが増えてきていまして、つい…。
力を持つ者としてミトスを考え始めていた頃から、アッシュとミトスを知り合いにする設定は浮かんでいました。
エステルは、能力者+アッシュに悪態付かない(心が広い?)人物として当てはまったので…。
ユーリも出したいですね~(笑)
今回、何処まで行っても区切りが悪く感じて、長くなり過ぎてしまいました(汗)
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