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*『哀しげな紅い瞳』の続きです。
「どうしました?」
細い目、相手を嘲笑う様に歪められている口。
その手が、こちらに伸ばされている事実に、思考が回らない。
身体が強張り、一歩も動けない。
瞬きも、出来ない………。
ロイドは目を見開き、身体を小刻みに震わせていた。
その様子を見ていたルークとクレスは、それぞれ動く。
ルークは、震えながらも視線すら動かせないロイドを横から力任せに引き寄せ、抱きしめる。
クレスは、そんなルークの前へ立ち、目の前の男からロイドを隠す。
病的とも言えるほど肌が白い男は、不気味にも笑みを深めた。
「フッ、今日は良い日になりましたよ。それでは…。」
まるで顔を隠すかのように、男は手にしていた帽子を深くかぶり、クレス達に背を向けた。
クレスは男の後姿が見えなくなるまで、ずっと前を向き、ルークは依然として震え続けるロイドを抱きしめていた。
「…ロイド…………。」
男が去り、ロイドがルークの腕の中で気を失ってしまい……ルークはクレスと共にロイドの家へと来ていた。
その場が、ロイドの家へと近かった為、クレスが、すぐにダイクへと電話をしたのだ。
二人がロイドの家へ辿り着くと、既に外で待っていたダイクが、ルークが背負っているロイドを覗き込み、家の中へと案内してくれた。
ぐったりとしたロイドをベッドへ寝かせ、取りあえず三人は落ち着く。
「色白の男、なぁ…。俺には覚えがねぇなぁ……。ロイドから聞いた事もねぇしな。」
「そうですか…。」
ダイクは、首をひねって必死に思い出そうとしたが、そんな男に覚えはなかった。
返事をするクレスも、店の客の顔を色々と思いだしてみるが、覚えがない。
「それで、ロイドは何も言わなかったのかい?」
「言わなかったというよりは……言えなかったという感じでした。何か…ひどく怯えている様で、一歩も動けないまま、男が見えなくなってから倒れて…。」
「うーん、ロイドがなぁ………。」
ダイクはそんなロイドを一度だって見た事がなく、上手く想像が出来ない。
クレスは少し考えてから、ふと、思い至った事を口にする。
「トラウマ、とは考えられませんか?」
「っ!?」
その言葉に、ルークは目を見開いた。
「おれは、ロイドが3歳くらいの頃にあいつを引き取ったが…孤児院は何も言ってなかったし、ロイド自身そんな様子を見せた事ぁないなぁ…。」
孤児院に連絡してみるか…と、席を立とうとするダイクを、ルークは引きとめた。
大事な話がある、と………。
椅子に座っているダイクとクレスに背を向けたまま、ルークは眉を寄せ…ゆっくりとロイドの髪に触れた。
そっと頭を撫で続ける。
ルークは、全く反応を返す事無く未だにぐったりとしているロイドの様子に、ずっと決断を躊躇っていた自分を責めた。
自分がもっと早く気付き、何か対処できていれば!…と。
重い口を、ルークは漸く開いた。
それは、クラトスという…ロイドの実の父親から聞いた事…。
「ロイドの母上って人は、たちの悪いストーカーにつけ狙われてたんだ。」
ルークは、己の弱い心を補う様に、心の安定を望むように、ロイドの髪を撫で続けた。
ロイドの母、アンナはストーカーに追われている時、クラトスと出逢った。
あまりにも怯えているアンナを、クラトスは気遣って、落ち着けてくれたらしい。
そして、ストーカー被害を警察に報告するのにも付き合い、二人の距離は次第に狭まっていった…。
やがて二人は結婚し、年月が流れ、ロイドが生まれた。
そして起こった事件。
アンナに付きまとっていたストーカーが再び彼女の前へ姿を現したのだ。
生まれて間もないロイドを盾にし、男はクラトスを刺した。
崩れ落ちるクラトスに悲鳴を上げるアンナ。
男は、クラトスを助け起こすアンナを不満げに眺め………そして、煩く泣き叫ぶロイドにまで刃物を向けた。
『や、めろっ!……………ロイドっ!』
クラトスが叫びながらも、ロイドへと手を伸ばした時、男はロイドの頭を刃物の柄でなぐりつけた。
更に泣くロイドに、男の殴りつける手は加速する。
『ふぎゃぁっ、ふぎゃぁぁぁぁー!!―――――っ!』
『っ!?っロイ…』
『………………。』
…そして、ロイドの頭がガクッと傾き、血が床へと落ちる。
『ロイドーーーーー!!!!!』
『やめてぇーーーー!!!!!』
クラトスは、気力だけで立ち上がり、驚きに男が怯んだ隙に、ロイドを取り返し、アンナに託す。
『逃げるんだっ!!!!!』
血に染まった腹部を押さえながら叫ぶクラトスを、泣きそうな顔で見つめたアンナ。
『私から逃げられると、本気で思っているのですか…?愚かですねぇ……。』
『アンナっ!!』
男の視線を受け、身をすくませたアンナは、夫に名を呼ばれた事で、ハッとし、最後に夫と視線を絡ませた後、駆け出した。
「ロイドの父上は、その後また数回刺されて…意識を失ったんだって…。それで、目を覚ました所は病院で…。」
「ロイドたちを探そうとはしなかったのかい?」
クレスが、話し続けるルークにふと問いかける。
ルークは首を横に振り、続ける。
「翌日、送り主不明の見舞いの品が届けられて…その中にあったメッセージカードには『今すぐあの世で会えなくて残念でしたね。でも、死ぬ楽しみは出来たでしょう?』って、書いてあったんだってさ…。それから、どんなに捜索してもらっても、ロイドたちの行方は分からなかったらしい。」
「捜索しても分からなかった?」
クレスは怪訝そうな顔をする。
「ロイドたちが発見された孤児院は、ロイドたちの住んでた土地からすげぇ遠いんだって…。だから捜索範囲を少し広めたくらいでは見つからなかった。そして…捜索は打ち切られた……。」
「…………。」
ダイクは、ゆっくりとロイドのベッドの横に立ち、ロイドの顔を眺めた。
「確証はないけど…仮にあの男が、そのストーカーだったとしたら…潜在意識の中であの男の存在を、ロイドは覚えていたのかもしれない。」
ルークの言葉に、クレスは頷く。
「…最近、ルークが元気がなかったのは、その事を知ってしまったからなんだね?」
ルークは、ロイドの髪から手を放し、俯いた。
「ロイドがね、とても心配していたよ。ルークが一人で何かをため込んでる感じがするって。」
クレスの言葉に、ルークはギュッと目を閉じた。
「ロイドを守りたかったんだ!でも、でもっ、どうしたらいいか解らなかった。俺、俺…ロイドの為に何も出来てないんだ………。」
項垂れるルークの肩をしっかりと叩いたのは、ダイクだった。
「そんな事はねぇ。お前さんは、その話を今、俺たちに聞かせてくれたじゃねぇか。こんなに息子の事を心配して貰って、俺は嬉しいぜ。」
穏やかに笑って言うダイクに、ルークは泣きそうになるのを堪えた。
「新メニューの追加と、机の配置替えは僕とマスターでやっておくよ。」
優しく笑いながら言うクレスに、ルークは戸惑う。
「えっ、でも…。」
「装飾品の買い出しは、またにしよう。それじゃぁ。」
そもそも、今日三人が出掛けたのは、ロイドたちのアルバイト先である『FANDOM』の新たな装飾品を選ぶ為だった。
急がなくても大丈夫だからってロイドに伝えておいてね、と告げ、ロイドの部屋から出て行ったクレスの後姿を見送り、ルークの視線は再び眠るロイドへと向けられる。
先程の男が、例のストーカーでない事を祈りたい。
けれど、ロイドの母親を追い回していたストーカーらしき男は未だに掴まってはいないという事。
「ロイドっ……。」
ルークは毛布から出ているロイドの手をギュッと握りしめた。
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痛い話で、本当にすみません…(__;)
いい加減、過去を隠し続けているのもどうかと迷い、書いてみました。
最近、OVA版シンフォニアをよく見ています。
そこから生まれた(創り出した)ストーカーキャラ。
捜索や、身元不明などについて、色々と現代設定ではない感じになっていますが…どうか流してやってください。
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